東京のバレエスタジオ
東京都豊島区, Japan
- Architetti
- 佐野健太建築設計事務所
- Sede
- 東京都豊島区, Japan
- Anno
- 2024
東京の城北地区、古くからの住宅地に建つバレエスタジオ兼住宅である。
敷地は江戸の二大庭園「六義園」のほど近く、往時には多くの植木店が集まりにぎわっていたという。鳥の目になって東京を俯瞰してみれば、「六義園」とその周辺が都内でも有数の大緑地帯であることに気づく。もともとは辺り一帯が武家屋敷や寺社であった。
翻って、現在の駒込周辺に目を向けてみる。至るところで開発が進んでおり、見方によっては条例のためだけに緑化されたかのようなビル群に豊かな緑空間が取って代わられつつある。
そこで、私たちはこの場所が街の小さなオアシスとなれるよう、緑を抱き込んだような建築をつくりたいと考えた。建築主はこの街で生まれ育ち、バレエ教室もこの街とずっと共にあり続ける。街にたいしてなにか恩返しができるような建設の行為でありたいとおもった。
まずは、スタジオの床を敷地目一杯確保し、大きな跳躍を伴うバレエに十分な有効高さを4.2mに設定した。床は地上から切り離され、上下それぞれに小さなボリュームが積み重なる。下層はガレージと更衣室等のバレエスタジオ付属機能、上層は少人数での暮らしを想定したコンパクトな住宅である。これらボリュームどうしのズレが空隙を生み、軒下やテラスとなってグリーンをふんだんに取り込んでいる。
建主が主催するバレエ教室では一貫して公演(発表会)をたいせつにしてきた。練習のための練習ではなく、本番のための稽古である。建築もこの精神を受け継ぎ、新しいスタジオでは劇場を一つのモデルとして考えてみた。北側のガラススクリーンをプロセニアム、階高いっぱいのテキスタイルを緞帳と見立てればスタジオは舞台に、都市側には客席が広がっていくようにも感じられる。ガレージの天井高さを限界まで低く抑え、舞台レベルを道路面に可能な限り近づけることで街との距離を縮めようと試みた。
住居部分はさながらペントハウスの様相を呈している。スタジオ壁面からのセットバックによって生まれたテラスが周りをとり囲み、室内の床とシームレスにつながっていく。都市にかかる斜線を回避しながら大胆に削ぎ落とされた屋根形状は、そのまま勾配天井として吹抜け上部のインテリアにあらわれてくる。水廻りとキッチン・収納を収めたボックスの上に就寝のための場所を設け、残りの吹抜け空間はみな食事・団欒などのパブリックスペースという、極めてシンプルなワンルーム型のプランである。
海外を拠点に活動している構造家が現地に訪れた際、内部から感じられる風景が極めて東京的だとふと呟いたことがある。通常外からの視線を嫌い閉鎖的になりがちなバレエスタジオを、あえて大開口を都市に向け、街との連続性をたいせつにしていることからもこの建築を「東京のバレエスタジオ」と名付けることにした。
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